キューバの有機農業、本当はどうなの?

前回の次回予告とは内容が異なってしまうのですが、

キューバ有機農業の続きを書いていきます。

 

前回の記事では、吉田太郎氏の著書を読み、

キューバの農業に感激したことを簡単に紹介しました。

その後、ネットでいろいろと調べていたところ、

有機農業が国を変えたー小さなキューバの大きな実験』(著:吉田太郎)が

キューバの現状を正確にはとらえていないことを主張する論文を見つけたので、

その論文の内容も踏まえたことを書こうと思いました。

 

吉田太郎氏の著書に書かれている

キューバ有機農業について簡単にまとめると、以下のようになります。

 

まず、社会が経済危機に陥り、国民の食糧を確保できなくなったことをきっかけに、

国をあげての有機農業へ切り替えが行われた。

 

化学肥料の代わりに利用されるようになったものは、

              ・ミミズ堆肥

              ・アゾトバクター、VA菌根菌、リゾビウムなどの微生物

              ・ゼオライト

が挙げられていました。

 

化学農薬の代わりになる病害虫と雑草対策としては、

              ・バイオ農薬の開発

              ・害虫の天敵となる益虫の大量飼育

              ・天然殺虫剤になる植物の栽培

が報告されていました。

 

さらに、緑肥作物と連作・混作によって病害虫対策を行いつつ、

土作りに役立てていることも書かれていました。

ラクターなどの大型農機具の使用をやめ、

代わりに牛による耕耘が盛んにおこなわれていることが紹介されており、

徹底した脱石油農業生産が強調されていました。

 

キューバの農業は、大規模農園ではなく、

小規模農園や都市農園に支えられており、

このことが有機農業の普及と成功をもたらした要因の一つとして描かれていました。

 

そして何よりも強調されているように感じたのは、

キューバの人々が有機農業による食糧生産に誇りをもって

積極的にかかわっているということでした。

これらの背景にあるキューバの教育システムの素晴らしさにも言及されていました。

キューバでは、幼いころから農業に関わることで食糧問題を身近に感じられる仕組みがあることや、

ラテンアメリカ諸国の中では群を抜いた教育レベルの高さが紹介され、

農業研究に支えられたキューバ有機農業技術の素晴らしさも書かれていました。

 

しかし、この内容を批評する論文の中では、

依然としてキューバは食糧不足にあり、輸入に頼っている現状をはじめとして、

キューバの政治・経済体制の問題点とそれが農業現場に与えている現状についても

報告されていました。

さらには、国民の意識として、持続可能な農業として有機農業が推進されているわけではなく、やむにやまれず始めたものにすぎず、化学肥料が安定的に安価で手に入るようになれば、

慣行農業に置き換われかねないという指摘もされていた。

 

要するには、有機農業を政治・社会・経済を立て直そうとしていることは評価できるものの

果たしてそれが成功していると言えるのかについては議論の余地があるのだということでした。

 

有機農業が成功する、失敗するというときに、

何を基準に考えるかによって、その判断は変わってくると思います。

化学肥料や化学農薬の使用を減らすことが成功なのであれば、強制的にキューバは成功させられている。

しかし、食糧生産性の確保という面では成功とは呼べない。

 

また、キューバ有機農業を語る上での問題点として、

有機農業の定義がキューバでは曖昧になっている点が指摘されていた。

さらには、元来の有機農業の理念である、「循環型で持続可能な農業」を意識して行われているのかについても疑問が残る点が否めませんでした。

これらのことを踏まえると、

果たしてキューバで行われている“有機農業“がヨーロッパなどで行われている

有機農業と同等に語れるものなのか、私の中でまだ整理がついていません。

 

とにかく、キューバの農業を調べることは、

「よい農業」とは何かを考えるうえで、とても素晴らしい材料になりました。

まだまだ私なりの答えが見えてこないので、

これからも「よい農業」とは何かを模索していこうと思います。

 

参考文献

新藤通弘. 「キューバにおける都市農業・有機農業の歴史的位相」『アジア・アフリカ研究』2007年第2号 Vol.47 No.2 通巻384号掲載

http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/files/07.06.23%20%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%90%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%83%BD%E5%B8%82%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%83%BB%E6%9C%89%E6%A9%9F%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E4%BD%8D%E7%9B%B8%E3%80%80%E5%8F%82%E8%80%83%E6%96%87%E7%8C%AE%E4%BB%98.pdf

「歴史的移行期にあるキューバ農業の現状 -第2次研究室視察報告―」東京農業大学 国際食料情報学部『食・農・環境研究』研究室活動年報 2008 第 3 号、2009 年 3 月.

http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/files/09.03%20%20%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E8%BB%A2%E6%8F%9B%E6%9C%9F%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%90%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A%B6.pdf