SOM 土壌有機物について

今回は初めて私の研究に関連のあることを紹介したいと思います。

ざっくりと説明すると、私の研究は土壌有機物に関する研究です。

もう一歩踏み込んで言うと、

土壌中でどのように有機窒素が貯蔵され、代謝回転されていくかについて詳しく見ています。

 

それがどう農業に関係あるかといわれると、

この研究を進めることが最終的には、

適切な施肥の量やタイミングを知ることに役立つと考えています。

 

無機態窒素は、直接植物が利用できる形態の窒素であるため、

即効性があり、また、施肥の量やタイミングはかなり研究されています。

一方、化学肥料の代わりに堆肥などの有機物を窒素肥料として施肥するとき、

まず、高分子有機化合物を低分子有機化合物ないしは無機態窒素に分解しなければ、

植物は利用することができないのです。

しかし、有機化合物の分解を制御している因子や、

植物や微生物による有機体窒素の利用を制限している因子について

総合的な理解がいまだ不十分です。

そこで、どのような因子が作用しあって、有機体窒素の利用を制限しているかを研究することで、

有機体窒素がどのような条件下でより使われやすくなるのか、

もしくは、どのような土壌では使われにくいのかなどが明らかになると考えています。

 

特に私が関心を抱いているのは、土壌中の鉱物による有機物の吸脱着についてです。

有機物の吸脱着は、土壌窒素循環に関係するだけでなく、

土壌有機物貯蔵にも大きく寄与しています。

 

土壌中の有機物が増加することにより、

土壌の物理性や化学性が改善され、

植物が育ちやすくなるだけでなく、

土壌浸食が起きにくくなるなど、土壌保全にも有利になるのです。

 

せっかくなので、土壌有機物が増加するときに、

どうして土壌物理化学性が改善されるかについて少し書きたいと思います。

 

土は、個体からなる「固相」、土壌水分の「液相」、そのほか空気を含む間隙からなる「気相」の3相からなります。この3つのバランスを適切に保つことによって、雨が降っても水をちゃんと吸収して土壌流出が防げるようになったり、植物根が枯れることなくしっかり根を伸ばして生えることができるようになったり、とても使いやすい土壌になるのです。

ちなみに、農業現場においてこの理想の割合は、固相:液相:気相=4:3:3といわれたりしています。

この理想的な三層構造を保ってくれるのに役立つのが本日の主役、

土壌有機物なのです!

 

土壌有機物は、土の中にある細かい粘土鉱物表面などに吸着し、

粘土鉱物同士をくっつけていく、いわば糊のような役割を果たします。

そして、小さい粘土同士が有機物を介してくっついていき、小さな塊が出来上がっていきます。

これが、微小団粒(ミクロ団粒)と呼ばれるものです。

それらがさらにくっついていき、大きな塊、マクロ団粒ができていきます。

このようにして、有機物と無機物を含む土壌の塊が形成していくことで、

土壌中には大小さまざまな間隙ができます。

サイズの異なる間隙が多くなることで、隙間の大きいところからは水がよく抜けて、

隙間の小さいところには、水が保持されます。

このようにして、有機物の働きによって適切な三層構造が保たれるのです。

三層構造が適切であると、土壌は物理的に耕しやすくなるのは想像しやすいですよね。

 

さらに、土壌有機物はマイナスの電荷を帯びているので、

カルシウム、マグネシウムカリウムなどの陽イオンとして土壌中に存在する

植物の成長に必須な養分を静電気的に保持する力が高くなるのです。

これがいわゆる化学性の改善です。

 

では、有機物が土壌保全にはどのように影響しているのでしょうか。

土壌劣化の大きな要因として挙げられるのが、土壌浸食、主に、水食と風食です。

土壌の物理性が改善されるということは、大雨が降った時に土壌中により多くの水がしみこむことができるということになります。

すると、水が土壌表面にたまって、土壌とともに流れていくということが少なくるのです。

さらに、土壌有機物が多いと、団粒構造が発達します。そのことによって、土壌の粒子のサイズが大きくなり、風で吹き飛ばされにくくなります。

さらに、先ほども述べたように土壌中の水分保持力も上がることで、

土壌の粒子同士の引き合う力が強まり、さらに土壌が風で吹き飛ばされにくくなるのです。

 

土壌有機物がいかに大切なのか、少しは伝わりましたでしょうか。

 

本当は、今日の投稿では、

土壌有機物がどのように土壌中を移動し、蓄積されていくかについて

研究結果を交えつつ紹介しようと思っていたのですが、

ここまでで力尽きてしまったので、またいつかに回すことにします。

 

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。