このブログでは、世界の農業技術について調べたものを簡単に共有していきたいと思います。
今回の投稿では、第1回目の「世界の農業技術紹介」として、アフリカで行われている「ザイ」という技術を紹介したいと思います。
ザイとは、アフリカの乾燥~半乾燥地域で伝統的に行われている土壌・水保全技術の一つである。通常直径約20-30cm、深さ15 cmほどの栽植穴であり、土壌改良と集水による農作物の収量増を目的とする。
一般的にザイは乾季に掘られ、そこに農民は堆肥などを投入する。風によってザイの穴にリターや風塵が溜まることで、シロアリが引き寄せられてくる。シロアリは土壌を攪乱し、土壌構造を改善するだけでなく、リターなどを土壌内部まで運ぶことで、土壌の透水性と保水性を向上させつつ養分循環にも寄与する。
ザイのさらなる利点として、少ない資源を効率的に利用できることが挙げられる。まず、乾季に作業を行えることで、雨季に入る時には播種の準備が完了していることである。そのことで、初期に降る雨水を農業に利用できる。さらに、流去水や降雨をザイに集まることで土壌に水を貯えることができ、乾燥期(雨季が途切れる10-14日ほどの期間)の影響を抑えることもできる。また、穴にしか堆肥を撒かないため、肥料の節約になる。
さらに、ザイの構造的な利点として、種子や芽が出たばかりの植物を雨や風から守ることもできる。
ザイの技術は、ニジェール、ブルキナファソ、ケニア、マリなど多くの国で実践されており、その効果は降水量が少なく不規則な年だけでなく、工数量の多い年においても収量増を保証してくれる在来技術として重要な役割を果たしていると考えられる。
特に、ザイが重要な地域は、荒廃した土壌が多い地域においてである。例えば、ラテライトやプリンサイトが多くみられるマリでの適用は大きな成果を上げている。
ラテライトとは、高温多湿の熱帯感興の下で激しく風化し鉄とアルミニウムの水酸化物を主成分とする土壌が露出し、乾湿を繰り返すことで不可逆的に硬化し鉄石硬盤や凝集体となったものをさす。このラテライトは、東南アジアやインド、アフリカの一部などでは代表的な建築材料として歴史的に使用されてきた。ラテライトの基になる土壌であるプリンサイト(固まる前のラテライト)は腐植をほとんど含まず、強度に風化した粘土と石英に富み、表面に硬盤層やクラストが形成されるため雨が浸透しないだけでなく、植物根も貫通することができなくなるため、農業には向かない土壌である。
このような土壌の改良にもザイは有効であり、ザイを適用した農地ではザイと適用しない農地の約4倍に収量が増加しているという報告まである。*1
ここからは、私の感想です。
穴を掘るという簡単な技術ではあるが、
確実に農作物の収量を増加させつつ、
土壌改良・保全につながるこの技術は、
素晴らしいものだと純粋に思いました。
同時に、「非生産的な土壌はダメな土壌なのか?」ということにも思考が巡りました。
農業をベースに考えると、
「いい土」とは「高収量を支持できる土壌」
と考えてしまいがちですが、
ラテライトを例にとると、
不毛な土壌であるかといって、
「いい土壌」ではないとは言い切れないと思いました。
現に、ラテライトは、
アンコールワット遺跡群にも使用されているほど
歴史的に重要な建築材料であり、
文明を支えた土壌であるともいえると思います。
最後に、脈絡にかけるまとめになりますが、
ザイについていろいろな資料に目を通しながら、
「よい農業」とは何かについて考えるときに、
生産性だけを考えるのではなく、
その国の置かれている政治的経済的状況、
その国の気候や土壌の性質
これまでの歴史的背景や文化など
すべてを踏まえる必要があることを改めて感じました。
なんか、簡単に言葉にまとめるとても当たり前のことですね。
また次回以降に、ザイの適用事例とそれを通して感じたことなどを書こうかなと思います。
参考文献:
*1松香堂書店. 2011.「土を持続させるアフリカ農民~土・水保全のための在来技術」(辻藤吾、荒木茂 監訳)
末岡徹. ラテライトの敵についてーその歴史的変貌も含めて.応用地質,第61巻,第6号,326-334頁,2021
Jour, Japan Soc. Eng. Geol., Vol. 61, No. 6, pp. 326-334, 2021.
Namirembe,S., Nzyoka, J., Gathenya, J., A guide for selecting the right soil and water conservation practices for small holder farming in Africa. http://apps.worldagroforestry.org/downloads/Publications/PDFS/TM17511.pdf
https://plantvillage.psu.edu/blogposts/139-zai-pits-in-arid-regions-of-kenya